上海で開催された Transport Logistic China 2026 を視察しました。ミュンヘン見本市が主催する国際物流展のアジア版で、物流・モビリティ・ITからサプライチェーン管理まで、幅広い分野の出展が集まる展示会です。
会場全体を通して感じたのは、AIが個別のツールではなく、業務の中心に置かれていることでした。配車も、車両の管理も、貨物の追跡も、AIが判断する前提で組み立てられていて、人はその結果を確認する側に回っています。そして、それを支えているのは、現場のデータを集める仕組みでした。
AIを中心にした業務効率化

象徴的だったのが、「AIは散らばった道具ではなく、サプライチェーン全体を貫く中枢神経だ」という講演です。各拠点のデータを一か所に集めて見える化し、次にリスクを分析して警告し、最終的には在庫の水準やコストの最適な打ち手をAIが提示する。この3段階でサプライチェーンの司令塔をつくる、という構想でした。

配車のマッチングが20〜30分から30秒以内になった事例や、データ集計・受領書の整理・伝票入力といった業務ごとにAIの担当を置き、既存システムは入れ替えずにつなぐ提案など、効果を具体的な数字で示す発表が続きました。いずれも、導入して終わりではなく、現場の要望をもとに学習させて賢くなり続ける前提で作られています。
AIをフル活用するためのIoTデバイス

こうしたAIが判断するには、現場のデータが集まっていることが前提になります。会場では、そのためのIoT機器も数多く展示されていました。車載では、映像をその場で解析する小型のAIボックス、運転席のディスプレイ、通話用のマイクなどです。
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貨物側の機器は、壁一面に並ぶほどの種類がありました。温度と位置を記録する手のひらサイズのトラッカー、開封を検知してクラウドに通知する月額制の電子シール、無線の温湿度センサーやドアの開閉センサー、車載のルーター。活魚を運ぶ水槽向けに、溶存酸素や塩分を測るセンサーまでありました。貨物の状態を、種類を問わずデータにする道具が一通り揃っている印象です。
車両、ドライバー、貨物のそれぞれに小さなセンサーを付けてデータを集め、それをAIが分析して現場に指示を返す。個々の機器は地味ですが、この「集める→分析する→指示する」の流れを一つの仕組みとして組み上げていることが、AI活用の土台になっていました。
安全管理

車両とドライバーの安全管理も、AIが前提でした。日本のドライブレコーダーが「記録して後から見る」ものだとすれば、こちらは「その場で判断して知らせる」ものでした。
講演で紹介されていたのは、ドライバーを「信号機」の色で分類する考え方です。走行中のスマートフォン操作や居眠りの兆候、急な操作などを1,000kmあたりの回数として集計し、レーダーチャートと安全スコアで一人ひとりを可視化する。そのうえで「管理の力の80%を、リスクの高い20%のドライバーの教育に集中させる」と説明されていました。全員を一律に管理するのではなく、データで優先順位を付ける発想です。

車内カメラは、運転席だけでなく同乗者の状態まで見ていました。日本では「監視されている」と受け取られやすい仕組みですが、会場では事故を減らし、ドライバーを守るための道具として、当たり前のように語られていたのが対照的でした。

もう一つ現実的だと感じたのが、トラブル対応への使い方です。荷物の破損や事故で「言った、言わない」になったとき、以前は証拠が足りず、結局は運送会社が負担することが多かった。それが全行程の録画から必要な場面を30秒で呼び出し、そのまま証拠として提示できるようになり、紛争の調査にかかる時間が3日から30秒になった、という説明でした。安全のためだけでなく、会社を守るための投資として位置づけられていました。
自動運転・ドローン

会場で最も人だかりができていたのは、大型のeVTOL(電動垂直離着陸機)の実機展示でした。翼幅が十数メートルはある機体が物流展の会場に置かれていること自体に驚きましたが、中国では「低空経済」という言葉で、ドローンやeVTOLを使った輸送を国を挙げて育てている最中で、物流の一部として真剣に語られていました。

地上では、自動運転の配送車両も展示されていました。日本の軽トラックより一回り小さな無人車両で、中国では一部の都市ですでに公道での配送に使われ始めているものです。ラストワンマイルの人手不足を「人が運転しなくてよい区間」から機械に置き換えていく、という進め方です。
視察を終えて
日本の運送・物流の現場に、そのまま持ち込めるものばかりではありません。車内カメラによる監視ひとつ取っても、受け止め方は日本と中国で大きく違います。
ただ、展示を見て回って一番強く感じたのは、AIそのものより、その手前の話でした。配車のAIも、ドライバーの分類も、在庫の警告も、車両や貨物や日々の業務からデータが集まっているからこそ成り立っています。AIの性能を比べる前に、自社にあるデータを、どう集めて、どう溜めるか。そこが決まっていない会社は、どんなAIを入れても活かしきれません。
配車の記録、点呼、日報、受領書。多くの運送会社では、こうしたデータが紙やチャットや個人の頭の中に散らばっています。まずはそれを集める仕組みをつくること。それがAIを最大限に活かす近道だと、あらためて確認できた視察でした。



